椿の巣窟

うざい椿がうじゃうじゃ出現します。お気をつけて

蒼さんの苦悩

あいつだけは…っ

あいつだけは許すわけにはいかねえ。

…そう、思ってたんだが、な…。

 

***

横で楽しそうに笑う緑の髪をした獣耳美少女、ジェリム。

俺(注・女です)が強く憎む相手。

何てったって、俺はこいつに変な薬を飲まされて鳥にされたんだからな。

憎むのが普通だろ

今は宵闇やミロたちのおかげで、人間に少しなら(五日に1,2日程度)戻れるようになったけどさ。

だけどだからと言って俺の怒りが収まるわけではなかったんだけど

…何だかなあ

ぽつり、そんなことを呟いた。

「どうしたのだ?」

楽しそうに話していたジェリムがふと会話をやめ、くり、と首を傾げた。

眼鏡のレンズの奥の、大きな瞳が俺を捕らえる。

「べっつにー?」

俺は軽く笑って誤魔化した。

 

***

俺たちは友人だった。

俺はもと義賊、奴は薬屋だった。

ヘマをして傷ついているところを、彼女に助けられた。

俺が毒に強い体質だと知ったジェリムは、実験台になれと要求してきた。

礼のつもりで、1回だけと約束し、ジェリムが作った薬を飲んだ。

…吐き気がやばかったのを覚えている。

不思議とウマのあった俺たちは、度々会うようになった。

そしてたまに知らぬ内に実験台にされた。

俺は気付いても黙認した。

彼女なりに俺を大切に思ってくれていると感じていたからだ。

でも

そんな時にそれは起こった。

ジェリムの薬によって、俺は鳥になったのだ。

どんなに苦労したことか。

きっと鳥子に拾われなければ今頃そこらへんでのたれ死んでる。

いまでも思い出せばムカムカしてくるというのに。

ジェリムとこうして今話していることを懐かしいと思う自分が居る。

 

ひょんなことで、俺たちは再会した。

ミロの知り合いに雪牙という人がいて、その知り合いがジェリムだったんだ。

まさか会うと思っていなかった俺は困惑した。

いつか仕返ししてやる、と闘志を燃やし続けていたが、いざ目の前にするとどうしていいか分からなくなった。

「…久しぶりなのだ。に、人間に…戻れたのだな」

ジェリムは迷いながらも少し嬉しそうに微笑んでそう言った。

その時思いついたんだ。

「おっしゃ、裏切り返しだ。」と。

「久しぶりだな、まだ完全じゃねえけど、まあ、一応?」

笑ってそう言うと、ジェリムは目を見開いた。

「…怒ってないのか…!?」

「え、あ…ああ、うん」

何だか申し訳なくなってうまく笑えなかった。

「っ、本当に…?」

ジェリムのエメラルドグリーンの瞳が、小さく不安に揺れた。

「おう、まあ最初は腹立ったけど、まあこうして戻れたし」

そう言ってジェリムの頭を軽く叩くようにして撫でた。

「……よかっ…良かった……っ、」

ぎょっとした。

まさかジェリムが涙を流すとは思わなかったから。

「あの時…飲ませる薬間違えて…、止めるの、遅くて…蒼がいなくなって…っ、」

声を震わせながら喋るジェリムを、俺はじっと見ていた。

「すごく…寂しくて…自分が憎くて…ごめんな、本当に…すまなかった…」

 

その言葉がどうしても嘘には聞こえなくて。

その涙が偽りだとは思えなくて。

 

こいつも傷付いたんだなーって思ってしまった。

 

***

…そんなこんなで仕返しが先延ばしになってきたが今日こそ俺はやってやる。

だが今更殺すだの何だのという物騒なことは出来ない。

というわけで用意した。

爆弾シュークリームだ。

辛い、兎に角辛い。

緋奈に頼みこんだら作ってくれた。

「何に使うんだよこんなの!!!!」と怒りながらも作ってくれた。

「ほれ、ジェリム。これやるよ」

俺ビジョンでは禍々しいオーラまで発しているそれをジェリムが受け取る。

…しゅーくりーむ、だな

そう言ってはむ、とかぶりつく。

おっし、食べた!!!

兎に角苦痛にゆがむ顔さえ見れればいい。

倍返しなんてくそくらえだ。

…辛い。

ぽつり、呟く。

…やばいかな、辛すぎたか?

一応水なんか用意してるが…それでも駄目なときのために口直しのケーキも用意してるが…

……うまい!

…いや、そんなキラキラした目で見られても。

「どうして私が辛いもの好きなのを知っているのだ!!!?話したことあったか!!!!!?」

なんかもう、いいや。

 

 

………でもいつか。

いつか仕返ししてやろう…

力なくそう決意した俺だった。